依存とセラピーについて ―本当の自立は「依存すること」から始まる―

私たちは「自立=強さ」「依存=弱さ」と考えがちです。
けれど、心理臨床の世界ではその逆が真実であることがあります。
本当の自立は、「誰かに安心して依存できる力」から生まれるのです。


私たちは「自立=強さ」、「依存=弱さ」と思い込んでいます。
しかしセラピーの場では、しばしばその逆が真実です。
本当の自立は、まず“依存すること”を学んで初めて生まれるのです。
これこそが、「依存の逆説」と呼ばれるものです。


■ 偽りの自立 ― 見捨てられ体験がつくる防衛

偽りの自立は、強さではありません。
それは「情緒的な見捨てられ体験」に基づいて作られた防衛です。

養育者を信頼できなかった子どもは、
「誰にも頼ってはいけない」と学びます。

一見すると「自己統制ができるしっかりした子」に見えますが、
その背後には「情緒的な欲求」や「失望」への恐れが隠されています。
これがいわゆる“早熟な子ども”です。


■ 「乳児というものは存在しない」――ウィニコットの洞察

精神科医ウィニコットは言いました。

「乳児というものは存在しない。乳児と、乳児を世話する誰かがいて初めて乳児が成立する。」

人は他者の存在を通して、初めて自分を感じられます。
無理に自立を早めることは、「欲求を持つこと」そのものを防衛することになります。

ウィニコットは「偽りの自己(false self)」という概念を提唱しました。
それは、子どもの自然な欲求が環境によって満たされなかったとき、
子どもが相手に合わせて自分を隠し、順応してしまうことを指します。


■ 「欲求を持つこと」への恐れ

この「偽りの自己」は、後に“自立”のように見えることがあります。
しかし実際には、欲求を持つこと自体への恐れなのです。

その形は人によって異なります。
ある人にとっては「成功」「達成」「コントロール」など、洗練された姿に。
別の人にとっては「反抗」「引きこもり」「硬化した態度」として現れます。

けれど共通しているのは、
「普通の依存」への恐怖、
そして「再び傷つくことへの恐れ」から自分を守っているという点です。

その根底には、こうした思いが潜んでいます。

「もしあなたを必要としたら、あなたは私を傷つけるかもしれない」
「もし依存したら、私は捨てられてしまうだろう」


■ セラピーで学ぶ「依存しても壊れない」経験

こうして「自立しているように見える大人」が、
実際には情緒的に孤立し、
本当の親密さや信頼を築けないまま苦しむことがあります。

セラピーの中で、クライエントは
かつて不可能だったこと――
「セラピストを自分にとって大切な存在にすること」――に挑みます。

週ごとに「見られ」「理解される」経験を重ね、
次第にその関係を大切に感じられるようになります。
その過程こそが、依存を通して成長していく道なのです。


■ 依存の勇気、喪失の勇気

依存する勇気とは、「喪失に向き合う勇気」でもあります。
どんなに良い治療関係も、いずれは終わりを迎えます。
しかし、セラピストを自分にとって重要な存在として受け入れ、
そして最終的に「その人を失うこと」を経験することで、
人はこう学ぶのです。

「依存しても、壊れない」


■ 真の自立とは

真の自立とは、「欲求がないこと」ではありません。
それは、依存できる力・愛せる力・悲しめる力のことです。

崩れずに他者とつながり続ける力――。
それが、成熟した「自立」の姿です。

そして、ごく普通の依存を学ぶとき、
私たちは初めて本当の自由を手にするのです。

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