「良い」セラピー、「意味のある」セラピーとはどのようなものか?
良いセラピーとは?
良いセラピーとはなんでしょうか?心の病となると、やはり精神科でしっかりと診断がなされ、それに基づいた治療が良さそうでしょうか?
ただし、病院で医者がつける診断だけだと、人を理解する材料が少なく、結局はその人の問題が診断の中に限られてしまう危険性があります。
そして、診断を主軸に人を捉えようとする時、患者の心の苦痛は苦しんでいるその人と分離させられ、心の苦痛が病気として治療することができるかのように感じられてしまいます。
しかし、考えてみると、人がセラピーにくるきっかけとなる多くの問題は、その人の人生に織り込まれていることがほとんどです。
言い換えると、その人がどのような病気を持っているかというより、その人がどんな人であるかが大切であると言えます。
これは、人の悩みを診断に当てはめるのではなく、一人の個人としてその人を理解することに多くの時間をかける必要があるとも言えます。
良いセラピーは、その人を理解することであり、その人が自身を理解するように手助けをすることでもあります。
心理的な治療を診断によって決定するのはあまり助けになりません。その人の心理的背景、心の動きを理解しようとすることに意味があります。
事例①
わかりやすいように、1つ例を見てみましょう。
Aさんは、15年間に渡り精神科治療を受けてきました。Aさんは慢性的なうつを患っていて、一向に治療の改善が見られないため、別のところでセラピーを受けることになりました。Aさんは「これまでに受けた心理療法はあまり効果がなかったので薬を変えてみたい」とセラピストに言います。セラピストがもう少し話を聞くと、Aさんは、意味のあるセラピーを受けてこなかったことがわかりました。
Aさんは、今まで色々な薬物療法や色々な心理療法を受けてきました。しかし、一度も「自分」の話をしたことがなく、聞かれることもなかったようです。Aさんは、セラピーで理解できた自分に関する事柄が一つも思い浮かびませんでしたが、本人は意味のあるセラピーを受けていると思っていました。
良いセラピーの見分け方
さて、それでは、自分が受けているセラピーが意味のあるものなのかどうか、どのように判断するのでしょうか。
意味のあるセラピーを受けた人は、それについて意味のある形で語ることができます。
「これまでのセラピーについて教えてください」「セラピストとの関係性はどのようなものでしたか」「自分についてどのようなことがわかりましたか」と言った質問に、ちゃんと答えることができます。
Aさんは、セラピーは関係性であることに対する理解を持っておらず、あくまでセラピストは「技法を施す者」だと捉えていたようでした。
良いセラピーとは、自分の苦しみや病気をどのように理解しているのかについて、また、何が自分を不幸にさせていて、何が人生を生きづらくさせているのかについて、きちんと話し合われます。
悲しみや空虚感やその他の様々な症状に意味があることについて、それらに目を向けて考えることもできます。
これまでに話されてこなかった、避けられてきたような話題に注目し、関係性が深まるにつれてより開かれるようになります。
人は、自分を曝け出すまでに時間がかかるものです。
これは、自然な関わりの中で生まれるもので、スケジュール通りに動くことではありません。
そのため、ゆっくり時間をかけて自分に目を向ける場が必要となります。
事例②
もうひとつの例を見てみましょう。
パニック症のため治療に来た女性Bさんです。Bさんは、パニックは突然「理由もなく」現れると説明しました。セラピーでは、パニック発作の後に浮かんだ考えや気持ちに注意を向けていきます。思い浮かべてもらいながら考えに導かれるまま、それを止めず修正せず気づいたことを言葉にしていきます。Bさんは、セラピーの中で夫に対する不満に気づきます。Bさんは今まで、夫の愚痴を口にすることはありましたが、夫に対する怒りを表現することはなかったことに気づきます。そしてBさんは、自分の怒りを恐れており、怒りの代わりにパニック発作が生じていたことにも気づくようになります。
さらにセラピーが続くと、Bさんがそれまでに様々な方法で習慣的に怒りを払いのけ、無視してきたことを理解することができました。Bさんは、怒りに目を向け、感じることを恐れる必要がないことを発見していきました。自分のそれまでに知らなかった部分についても、よく理解することができました。そして、自分の怒りは危険で自分とは無縁のものだと体験しなくなったとき、パニック発作も消えていきました。最後には、Bさんは自分の情緒的ニーズに目を向けるようになり、それらを他者に上手に伝えられるようになりました。結果的に、Bさんの結婚生活にも改善が見られ始めました。
重要な点は、Bさんと夫の関係性パターンがセラピーの中でセラピストとの間でも見られたことです。
Bさんがセラピストに対するイライラや不満を払い除ける度に、セラピストをそれに患者さんの注意を向けました。
そして、Bさんのニーズがなんだったのかを彼女自身も含め誰も知らなかったことが、他者が彼女のニーズに応えられなかった原因のひとつであったと理解し始めました。
これは、彼女の憤りをエスカレートさせていた要因だったことも、Bさんは最後に理解することができました。
最後に
心の「障害」や「病理」などについてネット含めさまざまなところで語られていますが、医療では特に、「症状」とその「除去」に大きく注目しているように思われます。
「症状」は、セラピー(もしくは治療)が始まれば数週間で自然と「除去」されることがよくあります。
ただし、時間が経つとまた現れたりするので、根本的なところで変化が見られないと、同じことを繰り返すことになりやすい傾向があります。
自分ではあまり気づきませんが、人は誰しも、対人関係パターンを再現し繰り返す傾向を持っています。
セラピーは関係性であるため、問題となっている関係性のパターンは、セラピーの関係性でも現れてきます。
熟練のセラピストは、そのパターンに巻き込まれながらも、それに気づき、患者にも理解できるお手伝いをしていきます。
もし今セラピーを受けている方は、自分が受けているセラピーが良いものであるかについて、一度振り返って見るのはいかがでしょうか。

